Phantasy Garden

時間に追われて、あくせくと生きていく今。無駄な時間を省き、効率よく時間を使って財を成す生活。それに耐え切って功を為せば成功者。耐え切れずに落ちぶれていったものは敗者――それが、『現代』の日常。何のためにと理由を問えば、『豊かな生活を送るため』。だけど、それは本当に『豊か』なんでしょうか。

この物語の舞台は、地球が完全なオートマチックシステム化されて火星の開拓が進んでいる近未来、西暦2300年の火星――アクア。かつて地球に存在したイタリアの水の都『ヴェネツィア』を模して造られた都市『ネオ・ヴェネツィア』を中心に、どこか中世の雰囲気を感じさせるストーリーです。星間旅行まで実現している中、アクアでは未だに人力で作業が続けられており、いかにも『不便』といった感じなのですが……。

だけどその不便さに、不思議と落ち着きを感じることもある――それがこの物語の主人公、水無灯里です。何もかもが自動化され、完全に合理化された地球を離れて、ネオ・ヴェネツィアでの伝統的な観光客専門の舟漕ぎ『ウンディーネ』を志してやってくるのが物語の始まり。何故『ウンディーネ』になりたいのか――というのは物語を読み解いてもらうことにして、その『ウンディーネ』の修行を通して展開される物語は、『現代』を生きる私たちもついつい忘れがちな『小さな幸せ』をはっと気づかせてくれます。子供のように純粋に『楽しむこと』。時にはそれが、摩訶不思議な物語を紡いだりもします。

私はこの物語を読んでいくうちにどんどんと共感を覚え、同時に懐かしさを感じました。この物語でよく使われるキーワードが『摩訶不思議』なのですが、子供の頃に感じた『摩訶不思議』なことを物語にするとこのようになるのかもしれません。その好奇心が子供のときの原動力になっていました。懐かしいと思うのも共感を覚えるのも当然のことで、それは一度経験していたことであり、またそれが人生の楽しみであったのですから。

しかし、その感覚は遠い昔の話ではないはずです。大人になっていく過程で失われてしまったように見えるそれも、目を凝らしてみれば確かに存在しています。誰かを待つ時間の中で。夏の夕立に降られ、木陰で雨宿りする中で。ふと目を覚ました夜の静寂の中で。見ようと思えば、いつでも見られるはずです。ただ残念なことに、時間に終われて生きていく『現代』において、それは気づかれにくいのかもしれません。

もし機会があれば、この物語を味わった後に『現代』の生活を思い返して自分の心に問うてみてください。

『私は私の人生を楽しんでますか』――と。

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