Phantasy Garden

静まり返った闇。もう既に、そこには何も残っていなかった。

パイオニア2がパイオニア1の招聘を受けてラグオルへと導かれた後、地表面での奇怪な大爆発と共に通信を絶ったパイオニア1――セントラルドーム。一時期、とあるハンターズらがその真相に迫り、その事件を解決したとか何とかいう噂がハンターズギルドの間で絶えることがなかったこともあった。報道規制が敷かれていたその時は――多少緩和されたものの今でもその規制は続いているのだが――噂が噂以上になることはなかったが、しかし事実、セントラルドーム周辺での原生生物の脅威はかなり減少したといえる。とはいえ、それはあくまでハンターズや軍部の認識のもので、まだパイオニア2の移民計画が再開できるといえるほど脅威が収まったわけではなかったが。パイオニア2の住民はそのことに不平を漏らしていたが、それ以上のことは何も出来ず、その判断は総督府に任されることとなった。

そして、それとはまた別件とも思える事件が起こる。セントラルドームの建設地周辺とはかなり離れた場所で、パイオニア1の建造物らしきものが見つかったという報告がされた。
ガル・ダ・バル島。その小さな島で発見された建造物は、確かに移民たちが作ったと思われるものであった。セントラルドーム周辺で見つかったような、先住民らしきものの建造物でもなく、その科学技術はパイオニア1のものと同等。調査報告によれば、何かの研究地跡のようにも思えるということらしい。それだけを見れば、誰もがパイオニア1の人々が建造したものと思っただろう。

しかし、その建造された場所に問題があった。何故、そんなセントラルドームから離れた場所に建造する必要があったのか。その理由は邪推すれば簡単に出てくるのだが、今度は逆にあまりにも簡単に邪推できてしまうために、そのガル・ダ・バル島の存在をパイオニア2の一般市民に公開するわけにはいかなくなった。存在さえ表立って出すことの出来ない研究所跡――セントラルドーム周辺地下にもそれと状況が酷似している場所が報告されているが、そんなものを公開してしまえばパニックか暴動が起こる可能性は否めない。そこまで酷くはないにしても、この移民計画に支障を来すレベルで不信感が募ることは大いにありうることだ。それゆえに、ガル・ダ・バル島の存在も、セントラルドーム周辺地下の報告と同様、一般に知れ渡ることはなかった。

「――その最高機密の中枢が、ここ……」

パイオニア2では、それぞれ独立した機関がラグオルの調査を連携して行っている。中央司令部である総督府は勿論のこと、ある一定以上の権限を委譲されている軍の一部や、フォトンの研究などを行っているラボ、そしてハンターズギルドの4つが主な機関である。ただし、どれもこれも簡単に歩み寄っているわけではなく、様々な確執を以って互いに牽制しながら、利用できるところを利用しあっているともいえる。これらの機関のうちハンターズギルドを除く3つの機関は、本星である惑星コーラルの10カ国連盟に所属している政府機関であり、一般人はおいそれと口を挟むことは許されない。対してハンターズギルドは一般の人々からの依頼をハンターズに斡旋するなど、仲介役として機能している非政府組織である。パイオニア2へ組み込まれている間は、実質総督府の管理下におかれているのも同然ではあるが、かといってとくにハンターズギルドが卑屈になっているという噂は聞かない。報道規制の影響で、これら組織の上層部がどのような連携を行っているのかは判然としないが、少なくともパイオニア2の人々から直接的な不満が各組織にぶつけられるというような事態はなさそうだった。その意味では、まだハンターズギルドの非政府組織としての機能は正常なのかもしれない。

ともあれ、そんなややこしい状況を経て、ガル・ダ・バル島の調査は行われていた。総督府がハンターズギルドにラグオル地表――セントラルドーム周辺の調査を依頼したときには、総督府そのものがハンターズギルドに親和的であった為か、ハンターズならばとくにこれといった制限を掛けられることもなく調査へ向かうことが出来た。しかし、ガル・ダ・バル島の調査を指揮することになったラボは総督府ほどハンターズギルドに対して好意的な印象を持っていないらしく、独自に開発したシミュレーションシステムを用いて選抜試験を行い、それらに合格したものだけを調査に向かわせるような体制をとることにしていた。ハンターズギルド側からはその体制に対して多少の改善を求められたものの、結局はほとんど当初と変わりなく選抜試験が行われている。

実際、ハンターズギルドの抵抗はともかく、その選抜試験自体はそれほど悪いものではなかったらしい。ガル・ダ・バル島で遭遇したアルタードビーストなどは、セントラルドーム周辺よりも遥かに凶暴で、危険であった。単純にハンターズの絶対数が違うセントラルドーム周辺の調査時と比較することは出来ないが、それでも選抜試験に通ったはずのハンターズの、その死傷者の比率においてセントラルドームの調査時と比較して著しい違いを見出せないということがその危険性をまざまざと物語っている。ハンターズギルドが選抜試験への抵抗を後日容認したのも、それが理由の一つであった。

何もない。何も残っていない。命の気配がない。まるで、そこは長年誰も立ち入らず、存在することさえなかった場所であるかのように。

衛星軌道から確認できた、通称『中央管理区』。ハンターズの調査でも、そこが何をする場所だったのか、まだその全貌は明らかになってはいない。ハンターズが調査記録を持ち帰り、それをラボが解読することで判明した一部の研究では、機械的生命の人間化などというものもあった。さらには応用フォトン研究などの記録が出てきているのではないかという噂がハンターズギルドで流れているが、ラボ側は依然として何の発表もしないために真相は不明である。

そしてその『中央管理区』から発見された『海底プラント』施設。中央管理区の一端から接続されており、そのプラント施設もパイオニア1の人々の建造物であることは疑いようがなかった。また『海底プラント』という名前のとおり、海底数百メートルに及ぶ大規模な研究施設であり、未だにラボ側もその全容を把握し切れていないらしい。しかしそこも既にエネミーの巣窟と化しており、容易にその調査を行えるわけでもないのだから仕方がないといえば仕方がないのだろう。一部では浸水しているところもあって区域自体が危険であるばかりか、何らかの研究の影響かフォトン密度が地表よりも遥かに濃く、徘徊するエネミーも地表よりも数段手ごわいのだ。迂闊にハンターズを送り込むわけにもいかない。一歩間違えれば、施設の崩壊と共にハンターズが海の藻屑と化してしまうだろう。

それでもラボはその真相を追究することを止めなかった。それはラボがこの調査を指揮するきっかけとなった、とあるメッセージの発信源でもあったのだから。

ユーリィ・クォーストラル。

端正な顔立ちで、青い瞳と赤みがかった栗色の髪が印象的な女性ヒューマンのフォース――フォマールである。ハンターズとしての活動はそれなりにあるものの、そのレベルは抜きん出て秀でているわけでもなかった。フォースとしてはそれなりに、それ以外の能力についてはやや疑問符がつく程度の平均的なハンターズである。別段、特殊な才能があるわけでもなかったが。

「ラボには不思議がられるかもね。私が、ここにいること……」

苦笑交じりに独りごちる。能力的には中の下で、選抜試験さえぎりぎりの成績で通過した程度のハンターズ。それが、何故かラボの調査の最先端を見ているということに。

だが、それは実際のところ自意識過剰なだけかもしれない。ラボとしてはそんな本人の資質がどうのこうのというより、依頼を適正に遂行できる人物とその結果が欲しいだけであろう。むしろ、それに疑問を持つべきものはハンターズギルドだろうか。

辺りは一面変わり映えのしない闇だったが、ユーリィはかまわず天を仰いだ。視線の先は周囲の闇よりも、さらに深く、吸い込まれそうになる漆黒。それを見据えながら、静かにその想いを馳せていく。

爆音と鳴動が響いていた。その中で歓喜か悲鳴か、はたまた狂気の叫びか、あるいはそれら全てを含めた何かが渦巻いていた。

思わず目を覆いつくしたくなる激しい爆発。幾重にも重ならんばかりの激しい攻撃。文字通りの死闘。およそ人間が思いつく限りの凄まじく残虐な光景が、その場に全て収束されて体現したものなんじゃないだろうかとさえ思える状況。

それは何を思っていたのだろうか。この世の全てを粉砕しつくさんばかりの破壊的欲望だろうか。それとも――。

その幻想を砕くがごとく、次々と襲い掛かる死の臭い。それは何も思ってはいない。それは何も欲してはいない。ただ、あるがままに自らの力を振るうだけ。その先にある未来を、意味を求めてなどいない。

そして、だからこそ、それを砕くことは、それ自身が望むことでもある。力の振るう先がなくなったとき、それは自分の存在意義を見失う。最終的に分かり切った結末を、時の流れによって引導を渡すのではなく、あたかもそれが望むがごとく、闘いによって導くことこそがその望み。

またそのように導くことが、これからの未来にあるべき姿。それは時空から望まれない存在であった。自らの意にも反した、生物として有り得ない存在の体現。

だから、それに終止符を打つ。悲痛な連鎖を断ち切るために。

ふと足元を意識すれば、水の冷たい感覚が脳を刺激する。海水か真水かは分からない。確かめてみようという気も起こりはしなかった。だけど、その痛みともいえる感覚は自分を現実に引き戻してくれる。幻想に身を委ねてしまいそうなこの身を、この地にしっかりと繋ぎとめてくれる。

いつの間にか閉じてしまっていた目を開き、ユーリィは足元を見やった。水は足首が完全に浸かる程度までの嵩に達してはいるが、それ以上は一向に増えている気配がない。とすると周りの海水が浸水してきているというよりは、貯蔵していたタンクなどの水源から漏れ出てきているものかもしれないが。

自らの足は、その水の底にある地面をしっかりと踏みしめている。それは紛うことなき事実。何よりも、ここに自分がいるということの証明。

足元まで浸かっているせいで、ほとんど地面を引きずるようなくらい長いローブの裾も完全に水に浸かっていまっている。だがその素材は耐水性、耐火性、絶縁性、耐薬品性といった性能を持つハンターズの基本装備素材であるのでそれほど問題はない。唯一気に入らないといえば、耐衝撃性も兼ねているおかげで服そのものが重いというのもあるが。耐水性とはいえ幾分かは水分を吸ってしまうから、さらに重くなりがちなのも頂けない。

そんな下らないことを考えて、現実から目を背けることは簡単だった。悪い癖だ。直さなければならないとは分かっていても、性分として身に染み込んでしまったものを取り除くのは困難を極める。だがしかし、今は少しだけ目を背けていたい。

自らの汚れた手を見やる。埃に塗れているだけではない。そこには見えない、しかし確実に染みこんでいて離れようとしない罪の跡。自分の命の炎が尽きてしまう前に、いったいどれだけ他の炎を絶やすことになるのか。

ふと前を見れば、白く霞む人影がこちらを睨むように見ていた。老若男女、その区別ははっきりとしない。人の形に似ているというだけで、それは人ではないかもしれない。いや、そもそも白く霞んで見えるなど、人間では有り得ない。

彼は誰そ。そんな思いを感じる前に、それが何であるかははっきりと分かっている。それは、感傷ではない、自分自身の罪の影。

「――大丈夫」

その言葉を紡ぐと同時に、影が揺らぐ。

「私は、私が信じる道を歩んでいく。立ち止まりはしない」

目を背けていられる時間は終わった。罪に囚われて、進むべき道の歩みを止めてはいけないのだ。それは罪を振り切るのではなく、その全てを受け入れて、認め、罪を償っていくための歩み。また一つ、自分に課された罪の十字架を背負って、ここを歩き始める。

「連鎖は断ち切るよ。それが運命だとしても、抗い続けていく。抗い続けなければいけないことだから」

静かに手を握り締めたとき、瞼の裏に映っていた幻影はもはやその気配も残っていなかった。相変わらず濃い闇の中で、わずかに漏れているフォトンの光が水面に反射している。耳が痛くなるほど静かな空間。今は何もない、しかしそれまでは確かに存在のあった場所。全てから認められなかったものが行き着いた場所。

海底プラント最深部。終焉が始まった場所。

絶望の淵から投げられた言葉を受け止め、ユーリィはその場を立ち去った。

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