Phantasy Garden

「うぷっ…………」

その物体を口の中に含んだ瞬間、あまりのまずさに思わずむせ返ってしまった。なんとも形容しがたい、そもそも食べ物の味とは思えないくらいひどい。これはある種の罰ゲームなのではないだろうか?

(――贈り物に何か細工を施したんじゃねぇだろうな……)

と、勘繰りたくなるほどである。

群青の髪、澄んだ青色の瞳、服装も青で統一した青年のハンター、ヴィードはチェックルームの前で受け取ったバレンタインチョコを一かじりしてそう思った。隣にいる無言の黒いレイマー、スパイトフルはヴィードのそんな様子をいつものごとく無言で見つめている。

「ユーリィめ、何かしら材料間違えやがったな……噂によると、チョコってモノは甘いはずなのに」
「……………」
「なんかこれ、すっごく苦いぞ……おまけに辛い……」
「……………」
「ってか、なんとか言ってくれよ、スパイトフル?」
「………気にするな」
「………最近はそればっかり聞いてる気がするんだがな……」
「……………」

いつもスパイトフルとの会話はこんな感じである。次第に慣れも出てきたのか、ヴィードはそんなスパイトフルをさして気にならなくなってきていたが。性分なんだろうと、勝手に理解しているのであった。

「しっかし、なんだか薬臭いのが気になるんだがなぁ…………あいつ、ヘンなもん混ぜてないだろうな? 薬師だから、なんとなく説得力があってかなり不安だし」
「…………そうなのか?」
「まぁな。あいつの親父さんの跡を継いでやってるみたいなんだが……材料が分からなくなると、適当に混ぜ込むところがあるしなぁ」
「……………」
「料理の腕はまぁまぁいいのに……未知数のものになると、てんで向いてねぇんだから……」
「……………まぁ、そういうな」
「言いたくはないんだけどな……いっつも付き合わされてると、さすがに愚痴の一つも出てくるって」
「……………」

肩を落として、そう呟く。そうしてヴィードはチェックルームからいくつかの武器を引き出して、ハンターズが携帯するザックに収めていく。それを見て、スパイトフルが、

「…………仕事か?」
「あぁ。なんか胡散くせぇやつだがな。軍関係の仕事はホントやりづれぇ」
「…………」
「まぁ今回はもう一人いるらしいがな。比較的、楽だろう」
「…………」
「……その親指を立てる意味がよくわかんねぇが」
「…………」

と、無言で佇むスパイトフルに、ヴィードは軽く片手を上げ、

「じゃあな。もうすぐ時間だし、いってくる」
「…………」

同じく軽く手を上げ、ヴィードを見送るスパイトフル。ヴィードはスパイトフルに背を向けて、ギルドへと足を進めた。

「私の事に関して詮索はする必要ない。要は君たちは任務を遂行すればいいだけだ」

と、明らかに軍人と一目でわかる格好をした依頼人は、そう言って話を切り出した。

「さて本題だが、セントラルドームの周辺にある区域のエネミーを一掃してもらいたい。発生区域では無限とも言える数のエネミーが出現するという報告が入ってきている。入念に装備をチェックし、殲滅に当たってくれたまえ。なお、分かっているとは思うが、このことに関する情報は一切他言無用だ。それでは早速、任務に従事してくれたまえ」

容赦ない威圧的な態度をとるその軍人(依頼人)には、少なくともヴィードは好意を覚える事はできなかった。隣にいる見知った顔――ヴィードと同じくらいの長身で色黒のフォニュエール――ベスも同じような顔をしている。

「…………ったく、面倒だね」

ぼそりとベスが愚痴をこぼした。

「…………まぁ、彼らにもそれなりの事情があるんだから。やっきになってやることはないだろうが」

と、後ろから睨みつけるような視線を送っているその軍人を気にかけつつ、ヴィードは言葉を選んでベスをなだめる。ベスは不満げな顔をしながら、

「分かってるわよ――事情も何もないんだったら、こんな依頼、受けたりしないわよ」
「それには同感だがな」

武器の整理をしながら、ヴィード。ベスのほうは準備ができているらしい。ヴィードの整理が終わるのを待ちながら、手持ち無沙汰に辺りを見回している。ヴィードのほうもそれほど大掛かりに整理しているわけではなかったので、それを続行しながらギルドを出てテレポーターへと向かった。

「OK。いこうか」

ラグオルへのテレポーターを目前にして、ヴィードがそうベスを促した。ベスは無言で頷き、テレポーターからラグオルへと転送されていく。ヴィードもそれに倣い、ラグオルへと降りていった。

指定区域の敵を殲滅するという依頼なのだが、勿論のこと、指定区域に到達するまでにもエネミーはいる。面倒な事だが、そのエネミーも倒していかない事には指定区域にすらたどり着けないのだ。

「…………この辺りなら大したことはないんだがな」

ブーマをまとめて屠り、ソードを構えなおしながら、ヴィード。

「言うじゃないか。どの程度ならいいんだい?」
「別に好きでやってるわけじゃないんだが…………」

ベスのからかうような声に、ヴィードは渋い顔をしながら答える。

「陽が落ちてくると、エネミーも様変わりするからなぁ…………」

まだ頭上近くにある陽を眺めながら、ぼそりと呟いた。どういうわけか、ラグオルの生態系は昼夜で一転する。夕方が近づいてくると、また違う種族のエネミーが出てくるのだ。さらにそちらのほうが、現在戦っているブーマやラグ・ラッピーなどより数段手ごわい。

「はぁっ!」

ヴィードの気合に薙ぎ倒されるように、ブーマたちが断末魔を上げて地に伏していく。ハンターといえども相当な力量がなければ、数匹のブーマをまとめて薙ぎ倒していくのは難しい。それをこのハンターはたったの数撃で地に伏させていた。

「その調子で行ってくれると、楽なんだけどねぇ。感情も何もない戦い方だけどさ」

感心してるのか呆れているのか、苦笑を浮かべながらベスが言う。ヴィードは多少困ったような表情を見せて、

「んー……わけあって、あんまり戦闘で感情的になるのはできねぇんだ」
「……? そんなのは当たり前のことだろう。常に冷静であるってのはさ――」
「いや、そうじゃなくてな……」

辺りのエネミーが全滅した事を確認して、ヴィードはその場に足を止める。ベスは少しだけ先に進んでいたが、同じく振り返るようにして足を止めた。

「それこそ…………自他問わず、命が危険にさらされているような窮地でもない限り、な」
「……ふぅん」

それこそ当たり前の事と不満顔のべスだったが、それ以上は追求しなかった。ざっ、と次の区画に足を踏み入れた途端、草陰から飛び出してきたサベージウルフがこちらを取り囲んだ。が、二人は特に慌てる事もなく、それぞれの得物を構え、

「せいっ!」
「はぁっ!」

こちらに飛びついてきたサベージウルフを薙ぎ倒していく。ものの数秒もたたないうちに、サベージウルフの全てを屠った。ヴィードはベスの得物を一瞥し、

「…………アギトか?」
「まぁね、気にしないでおくれよ。メンツの問題なんだから」
「得意のアレはどうしたよ?」
「そんなにほいほい撃ってたら、すぐに疲れちまうだろう?」
「まぁ、そうかもな」
「そうだよ。だから……」

ベスがすっと音もなく振り返り、唐突に盛り上がった地面を指差して囁くように、

「――恐れよ、我は深淵の下僕、無音の運び手!」

意思ある声が形を成し、不意に出現したブーマたちを昇天させた。闇のテクニック、メギドである。ベスの得意技の一つであり、発生した紫球に触れたものの魂を吸い取るテクニックだ。

「こんな感じにまとめて倒した方がいいだろ?」

ベスが口端を吊り上げ、ヴィードへと向く。ぽりぽりと頬を掻きつつ、苦笑するヴィード。

「この時間帯なら……」

振り返りもせずにソードを薙ぎ、後ろを取っていたゴブーマを屠る。

「気にするほどのものでもないだろうがよ」

一瞬呆けたベスだったが、すぐにぷっと吹き出し、

「こんなんじゃ、あんたの言う窮地とやらには程遠そうだね」
「別に近づく必要はないんだが…………」

本気で困ったように言うヴィードを見て、ベスはさらに笑い出し、

「あんたほどのハンターならさ、随分楽もできるよ」
「言われるほどでもねぇと思うが…………そっちだって同程度の実力があると認められてるじゃねぇか」
「さて、ね?」

ヴィードの言葉に苦笑を浮かべてはぐらかすベス。だがヴィードはとくにそれを不快とは思わなかった。ヴィードの周囲のハンターズ達は皆一様にして、自身を誇示するような事はほとんどしない。これは自分自身の力量をわきまえていないのではなく、むしろそれを知り尽くしているからこそ謙虚になるのである。そう彼らに言った事もあったが、お前も同じようなものだろうと指摘されたこともあった。

「…………単純に俺の力だけじゃねぇんだがなぁ…………」
「……? 何か言ったかい?」
「いや、なんでもねぇ」

とりあえず、初期転送されたエリア内のエネミーは全滅させたようだった。周辺の区画からも、これといった生体反応は届いていない。

「次か」
「あぁ」

初期エリアの最終区画。そこにあったテレポーターを眺めつつ、

「最初から指定区域に転送してくれりゃ、もっとはやく片付けられるのになぁ」

と、ヴィード。

「軍のハンターズに対する評価は著しく低いからねぇ。いきなり指定区域に転送しても対処しきれないとか考えてるんじゃない?」
「その周辺のエネミーを倒して慣れさせようとしているってか? そんな短時間に変わるものでもねぇと思うが……」
「そのあたりは分かんないわよ。危険度の問題から、転送できないというのもあるだろうし」
「まぁ、それが一番考えやすいかなぁ」

それは今ここで議論しても仕方がないことだったので、ヴィードはそこで切り上げる。テレポーターの起動スイッチを確認しながら、

「いこうか」
「そうさね」

テレポーターの起動と同時に、にわかにフォトンの煌きが発せられ――二人は瞬時に次のエリアへと転送されていった。

「雨か……」
「いつ見ても薄気味悪いところだねぇ」
「まったくだな」

とんとん、とソードを肩に叩きながら、ヴィードは辺りをうかがっていた。雨に降られるセントラルドームを遠景に、二人は道なりに進んでいく。もちろん、今までのように――もしくはそれ以上の量でエネミーが出現してきたが、ヴィードとベスは慣れた動作で効率的にエネミーを排除していく。

「この時間帯のヒルデベアならどうということはないんだがな」
「あんたが強すぎるだけだろ?」
「ヒルデルトとなるとそうはいかんよ」

ベスの苦笑交じりの皮肉に、ヴィードは困惑した様子で答える。ベスは苦笑を浮かべたまま、無言で肩をすくめたのだったが。周辺の調査に没頭していたヴィードは、そのベスの様子には気づかなかったようだった。

「……反応はあっちか」

と、エネミーの生体反応レーダーを確認しながら、閉ざされた道の先を指差す。

「レーザーフェンスが邪魔だな」
「ゲート自体もロックされてようだしね」

二重に閉ざされている扉を眺め、それぞれが端的に状況を呟く。しとしとと降る雨のなかで、しばらく佇んでいた二人だったが、

「このままここにいても仕方ねぇな。ロック解除のスイッチを探そう」

ソードを肩に担ぎ上げ、ヴィードがベスに促した。

「まぁ、仕方ないさね」

独白しながら、ベスもヴィードの後についていく。見える範囲では、それらしきものは見当たらない。雨で霞んでしまって、それほど遠くまで見渡せているわけではないが。進むにつれてしだいに道もぬかるみ、横に自生する木も狭まってきた。しばしして、先行するヴィードが隠されたようにあったゲートに気づき、

「――と、ここはどうだ……?」

そのゲートはロックがされていなかったらしく、近づくと人の気配を感知して自動で開いた。ゲートの中は小さな小部屋のようになっており、鬱蒼と茂った枝が屋根のように雨の侵入を阻んでいた。その幾重にも重なる枝の下、そこにゲートロック解除らしきスイッチがある。

「これか?」
「みたいだね」

とくに感慨もなく、ベスが何気なしに近づいてそのスイッチを作動させる。耳慣れた電子音が響き、しかしそこではそれ以上の変化は起こらなかった。部屋の外に出て、ヴィードが遠目にゲートを確認する。

「ゲートはいいようだが……フェンスはまだか。連動はされていなかったみたいだな」
「もう一つあるのかい? そんなに離れてはいないだろうから……そっちの区画にはない?」

ベスが西側の区画を指差して、スイッチの有無を確認する。

「んー、そういやまだ見てねぇな」

頭を掻きつつ、ヴィードはその区画へと入っていった。辺りを一目見回すと、流れる川の近くに解除装置らしきものが見える。ヴィードがそちらへと近づこうとした途端――数匹のラグ・ラッピーがその侵入者を阻むように空中から落下してきた。

「ちっ……邪魔をするんじゃねぇ!」

近づいてこちらを突き倒そうとするラッピーの攻撃をかわし、ヴィードは素早く横に回って群れごとまとめて薙ぎ倒す。それを2,3回ほど繰り返してラッピーの群れを撃退した。薙ぎ払って泳いだ剣を引き戻し、ヴィードが解除スイッチを作動させる。

「よし、これでいいはずだ」

先ほどと同じような電子音があたりに響き、スイッチに発生していたフォトンレーザーが遮断された。振り返ると、こちらへと歩み寄ってきたベスが、

「OK。フェンスも解除されていたよ」

ヴィードに頷きながら、そう告げる。

「……ったく、こんな面倒な仕掛けを入れなくてもいいのによ……」
「それには同感だけど……別にこれは軍がやっているわけではないでしょ? セントラルドームの人間がやったものだよねぇ?」
「あぁ。多分そうだと思うが……やけに厳重なんだよな、こういう仕掛けは」
「その割にエネミーに対しては、そんなに機能しなかったみたいだけどね」

皮肉な苦笑を浮かべながら、ベス。依頼にこれといった時間制限はないが、これ以上長引かせるのも意味がないので、自然と二人とも走り出していた。閉ざされていたゲートをくぐりぬけ、セントラルドーム高台前の広間につくと、

「……? なんだこりゃ?」

何を訴えようとしているのか、アイテムボックスがバラバラに配置されている。エネミーの反応もなく、不規則としか思えない配列で並べられたアイテムボックスだけがそこにあった。

「……どういう意味なんだい?」

ベスのほうも疑問符を掲げている。

「わからねぇな……とくにエネミーもいないようだが」

風を切る音がすると、ヴィードの手近にあったボックスの一つが粉々になる。ヴィードがソードで斬ったのだ。

「先のゲートはエネミー反応で閉ざされているしな」
「罠の可能性が高いけどね」
「まぁ、それしか考えられないな」

と、ベスがアギトを振り下ろし、ボックスをもう一つ破壊すると――地面から突然ジゴブーマが這い出してきて、雄叫びを上げてこちらへと突っ込んでくる。

「ははぁ……」

二人は冷静にジゴブーマの攻撃を見切り、それぞれわずかな差で攻撃を避ける。攻撃を外して無防備となったジゴブーマを、すかさず二つの刃の煌きが襲った。

「なるほどな。こういうことか」
「まったく……ヘンな知恵絞っても無駄だっていうに」

残ったボックスを見回し、ヴィードがベスに尋ねかける。

「一つ一ついくか? それともテクニックでまとめて破壊してみるか?」
「んー……一つ一つでいいだろう。テクニックポイントも無駄にならないし」
「了解。順番にいこう」

そういうと、ヴィードは手近なものから順に破壊していく。中にはムーンアトマイザーやメイトなどの回復アイテム、もしくはエネミーが待ち構えていた。だが、二人は動揺する事も苦戦する事もなく、決まりきったようにエネミーを排除していく。幾度目かのそれを繰り返した後、残りもわずかとなった。

「よっと……」

ヴィードはもう慣れた感覚でボックスを破壊すると、今までにない異変に気が付いた。

(――……!?)

そこに出現したのは地面から這い出してきたブーマではなく、ほんの一瞬遅れて空から跳躍してきたヒルデベアだった。そこに飛んできたヒルデベアは振り向きざまに、テンポを外されて体の泳いだベスを殴りつける。

「くっ!」

なんとかベスは腕を入れて直撃を防ぐが、それに興奮したヒルデベアが雄叫びを上げ、それを皮切りに周囲にいたサベージウルフ・バーベラスウルフが茂みから飛び出してきた。その直後に地面からブーマたちも這い出してくる。

「指定区域前の、前哨戦か!?」

一通り雄叫びを上げて今度はこちらへと突進してきたヒルデベアに、ヴィードは浅く薙ぎ払う。これは斬るためのものではなく、間合いを計りながら牽制する一手だった。自身の射程距離にヒルデベアが入る寸前、後ろへと急激にソードを溜め、一歩踏み込んで胴を薙ぐ。狙い違わずヒルデベアの胴に当たり、ヒルデベアが苦悶の声を上げてのけぞった。その隙を逃さず、ヴィードは連撃を重ねて、斬り伏せる。

「後ろだ、ヴィード!」

ベスの声がかかる一瞬前にヴィードは振り返り、回り込んでいたサベージウルフを薙ぎ倒す。足の遅いブーマ種たちが接近するまでの時間に、ヴィードとベスはウルフ系統のエネミーを地に伏せさせていた。地面から這い出てようやく――といっても数秒のことだが――ブーマたちが腕を振り上げ、こちらを攻撃しようとしてくる。だが、しかしその動作自体も戦い慣れた二人からすれば遅いものであった。群れを相手にしようとはせずに、一歩後ろに引いて両脇に回り込んできたブーマの攻撃をかわし、前線の後ろにいるエネミーたちもまとめて始末するのだ。効率的に、さらに迅速かつ安全にエネミーを排除するのは、ハンターズとして最低限の仕事である。

ヴィードは最後の一匹を屠って、一息をついた。

「……次が指定区域だな」
「そうさねぇ」

ヒュンヒュンとアギトの調子を確認するように空を切りながら、ベス。エネミーの反応が消えたことで、奥にある指定区域へのゲートロックも解除される。ようやく、依頼の大詰めとなった。

「準備はいいか? フルイド系はあるな?」
「もちろん。ぬかりはないさね」
「よし。いくぞ」

ヴィードが起動スイッチに手を翳すと、視界が一瞬揺れて指定区域であるセントラルドームの高台へと転送された。無限ともいえる発生区域――侵入者がその領域に足を踏み込むと、隠れていたエネミーが次から次へと出現する。その数はたしかに無限といえるものであった。

「ちぃ、数だけは多いんだから!」

転送した瞬間からのエネミーの洗礼に、ベスもアギトを風のように動かしながらその群れに立ちむかう。しかし、いかんせん圧倒的な数であった。ベスは次々と湧き出るブーマの群れに薙ぎきったあとの一瞬の隙を突かれて、側面からの攻撃を受ける。

「あせるなよ。慣れればどうという数じゃない」

モスマントの巣であるモネストを斬り倒し、周囲に群がるモスマントを払いながら、ヴィード。一対複数戦闘に向くソード系のソードが、群がるブーマに牙をむく。

「喰らいな!」

すぐさま態勢を立て直したベスの翳した手の先から、大量のエネルギーを帯びた電撃がひた走って、ブーマ・ゴブーマとエネミーの身体を貫いていった。ひるんだ一瞬にアギトを振りかざし、一刀両断のもとに斬り伏せていく。ヴィードもこちらに回り込もうとするサベージウルフを斬り伏せながら、何かを警戒するように辺りをうかがっている。

「どうかした?」

それを不審に思ったのか、ベスがヴィードに問い掛ける。ヴィードはウルフの攻撃を剣の腹で受け止め、

「いや……ヒルデベアがいねぇな、と思ってな」
「…………なるほど」

いわれてみればたしかにこの指定区域で、まだヒルデベアは出現していない。これだけの種類と数が登場しているにも関わらず、だ。あきらかにこれは不自然なことである。

(――機をうかがっている……?)

それほど知能に優れているとも思えないが、十分にあり得ることだ。

「しかし、はやく片付けないとな。日が暮れる時間が近づいてきている」
「……それはまずいわね。厄介なことにはしたくないんだけど」

日没が近づくにつれ、エネミーの能力が上昇していく。安全のために昼間しか行われなかったが調査が次第に夜へと及ぶにつれ、そういった認識が高まってきていた。ほんの数分で変わるものでもないが、ある時間を境にエネミーたちが変異してしまう。つまり、あまり長引かせているとコトは余計に悪化していくということだ。

ヴィードたちが指定区域に踏み入り、戦闘を続けて数分が経った頃、

「……来たか!?」

ヴィードが叫ぶ。一体のヒルデベアが姿を現したのだ。荒い息をつきながら、周辺のエネミーを見回している。

「ふっ――」

相手が気づかないうちに、ヴィードが先制で攻撃を仕掛ける。死角になるように背後付近から近づき、そのまま後ろから薙ぎきろうとするが、

「!?」

突如として視界に入ってきたサベージウルフがこちらを牽制し、攻撃の動作が一瞬鈍ってしまった。もう一度力を溜めなおそうとしたが、サベージウルフの牽制でヒルデベアもこちらに気づいたようである。舌打ちしながら、ヴィードはソードを縦に構えてヒルデベアの攻撃をしのぐ。

「邪魔だよ!」

ベスの放った雷撃の一部がヒルデベアをかすめ、少しだけその身体を仰け反らせた。ヴィードはステップを踏んでその合間に死角へと入り、こちらを見失ったヒルデベアを葬る。そして、レーダー反応に気づいたヴィードは、

「群れてきた! 上空にヒルデベア4体!」

応戦するベスに向かってそう告げる。すかさずベスも先制攻撃体制をとり、音もなく落下してきたベアを後ろから斬りつけていく。

「相手もそろそろピークのはずだ。もう少しでカタがつく!」

ヴィードも着地の隙を狙ってヒルデベアを屠っていった。だが、しかしベスはアギトの連撃では倒しきれず、ヒルデベアの反撃が襲う。

「ちぃ! レスタ!」

回復テクニックを唱え、傷ついた身体を癒す。だがヒルデベアは複数体でベスを取り囲んでいた。単体攻撃しかできないアギトでは確実に反撃を受けてしまう。そういうときは、ベスは一体のヒルデベアの後ろに回りこむように移動して、限定的ながら一対一の状況を作る。これが巨大な身体をもつエネミーを相手にするときの基本である。その巨体を使って、他のエネミーの追撃を防ぐのだ。

「っはぁ!」

ヴィードもベスの誘導で動きの鈍ったヒルデベアをまとめて屠り、襲ってきたヒルデベアをすべて撃墜した。残ったのは数匹のブーマとラッピー、そしてサベージウルフである。こちらの疲労もピークに達し始めていたが、それらを相手にして遅れをとるほどではない。ヴィードは最後の一匹をようやく葬り、携帯端末から依頼達成の知らせが聞こえてきた。

「終わったか…………」

呼吸を整え、ヴィードが一言そう吐き出した。エネミー反応で閉ざされていたゲートが開き、その先にパイオニア2への転送装置が設置されている。ベスも歩きながら気息を整えて、ヴィードの横に並んだ。

「なかなかだったな」
「ふふ。いうねぇ」

ヴィードの呟きに、ベスが笑って返す。区画の角を曲がり、転送装置が確認できたところで、

「だが、まだまだ制御が出来ない」

と、ヴィードが宙を見据えながら独白のように漏らした。ベスがその様子を黙ってみていると、さらにヴィードが言葉をつなげる。

「もっと鍛えたいところだがな」
「…………ふぅん」

ベスがあいまいに呟く。

「……なんかさ、そういうところって……」
「ん?」

ヴィードはベスのほうへと向き直り、

「アルにそっくりだよ、あんた」
「……はは。かもしれねぇな」

苦笑しながら、ベスと同じように知り合いのレンジャーの顔を浮かべる。そのまま再び歩き始めたが、転送装置の間際になってまたヴィードが立ち止まる。

「……俺のはもうちょっと違うんだがな。アルの事情と比べると」
「ふぅん…………まぁ、それについては深く聞かないコトにするけど」

にやり、とベスが笑う。そんなベスに、ヴィードはただ苦笑して返すしかなかった。

「ご苦労だった。報酬はギルドカウンターで受け取ってくれたまえ」

あくまで威圧的にしか答えない軍人は、口早にそう言って終わらせた。

「なんかさぁ……もうちょっと労わりの言葉とかは出ないわけ? 女性に重労働させてるんだからさ」

軍人に聞こえるか聞こえないかの瀬戸際の大きさで、ベスが声を出しながら独白する。

(――わざと声に出してるんじゃねぇだろうな……)

睨みを利かせてくる軍人に気づかない振りをしながら、ヴィードはあの睨みがこちらの話を聞き取ってしているものではないと勝手に思っておくことにした。根拠はまったくもってなかったが。

「まぁ、そんなに愚痴をこぼすなって。あのテのタイプにそれは無駄だ」

こちらはほとんど口も動かさずに、囁きかけるような大きさで呟く。ベスは口を尖らせ不満顔だったが、しばらくすると諦めがついたのか溜息をついて、

「まぁ……そんなに期待できないのは分かってるけどね」

報酬をもらいながら、ベス。ここでさらに何かを言うと逆効果になりそうだったので、ヴィードも苦笑して報酬を受け取るだけだった。

「じゃあ、今度はこんな依頼であわないようにしたいね?」
「あぁ、他の事でかちあうことはあると思うがな」
「ふふ。じゃあまたね」
「ん、またいつか、な」

ギルドを出て行くベスを見送って、ヴィードは背筋を伸ばしながら、

「あぁー、疲れた。帰って寝るかぁ」

こきこきと肩を鳴らし、パイオニア2の自室へと戻る事にした。可もなく不可もないハンターたちの日常である。

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